五反田敗北の女相撲オリジナル小説『土俵の火花 ―里江と珠里―』第1話
『土俵の火花 ―里江と珠里―』第1話
土俵の上に、二人は向かい合って立っていた。
一人は里江(りえ)。
落ち着いた目つきで、どっしりと構えるこの道場の一番手だ。
もう一人は珠里(じゅり)。
動きが速く、負けず嫌いな二番手で、里江にだけはまだ勝てていない。
「いくよ、珠里」
里江が低い声で言うと、珠里は唇をきゅっと結んでうなずいた。
はっけよい――。
ぶつかり合った瞬間、土俵がドンと鳴った。
珠里はすばやく横に回り込もうとするが、里江はそれを読んでいて、がっちりと腕を絡める。
「くっ……さすがだね」
珠里の額に汗がにじむ。
二人の体が密着し、息がかかるほど近い。力と力がぶつかり合い、土俵の砂がきしむ。
「まだ終わりじゃないでしょ?」
里江は少しだけ微笑んだ。その余裕ある表情に、珠里の胸が熱くなる。
負けたくない。追いつきたい。その気持ちで、珠里は最後の力を振りしぼった。
だが――。
里江は一瞬の隙を逃さず、体を入れ替えて珠里を崩す。
バランスを失った珠里は、ゆっくりと土俵に倒れ込んだ。
勝負あり。
「……参った」
珠里は悔しそうに言いながらも、どこかすっきりした顔で笑った。
里江は手を差し出し、やさしく引き起こす。
「いい勝負だったよ。もうすぐだね」
その言葉に、珠里は照れたように視線をそらした。
「次は……絶対、勝つから」
土俵の上に、二人の強さと、静かな火花が残っていた。
第2話に続く
